犬の皮膚のpHは、人とは少しちがう性質を持っています。
一般的に、人の皮膚は弱酸性(pH4.5〜5.5)といわれます。
一方、犬の皮膚はそれよりも中性〜ややアルカリ寄り(おおよそpH6〜7前後)であることが多いとされています。
同じ「皮膚」なのに、どうしてこのような違いがあるのでしょうか。
今日は、犬の皮膚のpHの特徴を、いくつかの生理学的な視点から整理してみます。
理由その1:厚い被毛による物理的バリア
犬は厚い被毛に覆われています。
毛は紫外線や乾燥、外部の刺激などから皮膚を守る役割を持っています。
人は体毛が少ないため、皮膚そのものを弱酸性の皮脂膜で守る必要がありますが、犬は「被毛」という物理的なバリアを持っています。
もちろん犬種によって被毛の量や質はさまざまですが、この被毛の存在は、犬の皮膚環境を考えるうえで重要な要素のひとつです。
理由その2:汗腺の構造の違い
人の皮膚が弱酸性なのは、汗の影響も大きいといわれています。
人は全身にエクリン汗腺を持ち、汗に含まれる乳酸や尿素などによって皮膚が酸性に保たれています。
一方、犬ではエクリン汗腺は主に肉球に限られています。
そのため、人のように汗によって皮膚表面のpHが調整される仕組みは強くありません。
理由その3:犬の皮膚の構造とターンオーバー
犬の皮膚は人よりも薄く、ターンオーバー(皮膚の入れ替わり)もやや速いといわれています。
人ではおよそ28日周期で角質が入れ替わりますが、犬ではそれより短い周期になることが多いとされています。
このような皮膚の構造や代謝の違いも、皮膚環境のpHに影響していると考えられています。
理由その4:皮膚常在菌とのバランス
皮膚には多くの常在菌が暮らしています。
犬の皮膚では、ブドウ球菌やマラセチアなどの微生物が、皮脂や皮膚環境とバランスを取りながら共存しています。
皮膚のpHは、こうした常在菌のバランスとも関係しています。
ただし、皮膚トラブルなどによってこのバランスが崩れると、菌の増殖が起こりやすくなる場合もあります。
まとめ:犬の皮膚のpHと洗浄
犬の皮膚のpHは、人とは少し異なる環境にあります。
- 被毛による保護
- 汗腺の違い
- 皮膚構造と代謝
- 常在菌とのバランス
こうした要素が重なり、犬の皮膚環境が保たれています。
小多福堂では、こうした犬の皮膚の特徴を考えながら、
必要な汚れは落とし、余計なものを残しにくい洗浄
を大切にしています。
犬の皮膚の状態は一頭一頭違います。
そのため石鹸が合う場合もあれば、シャンプーが合う場合もあります。
これからも犬の皮膚の生理学を学びながら、犬の皮膚に無理のない洗浄について考えていきたいと思っています。
参考文献
〇 Miller WH, Griffin CE, Campbell KL. Muller and Kirk’s Small Animal Dermatology. 7th ed. St. Louis: Elsevier; 2013.
犬・猫・小動物の皮膚疾患を網羅的に扱う獣医皮膚科の代表的教科書。犬の皮膚の厚さ、pH、常在菌の生態といった基礎情報から、臨床症状・診断・治療まで幅広く解説されています。
〇 Campbell KL, et al. Small Animal Dermatology Secrets. Mosby; 2001.
犬と猫の皮膚に関する基礎知識をQ&A形式でまとめた実践的ハンドブック。皮膚の構造や生理学的特徴、臨床でよく出会う皮膚疾患の整理に役立ちます。
〇 Hensel P, Santoro D, Favrot C, Hill P, Griffin C. Canine atopic dermatitis: detailed guidelines for diagnosis and allergen
犬のアトピー性皮膚炎に関する国際ガイドライン論文。皮膚バリア機能や常在菌との関係、pHの影響など、犬の皮膚の生理学的背景が詳しくまとめられています。
〇 DeBoer DJ, Marsella R. The ACVD task force on canine atopic dermatitis: skin barrier function. Vet Immunol Immunopathol. 2001;81(3–4):233–239.
犬の皮膚バリア機能を免疫学的観点から解説したレビュー。皮膚の弱アルカリ性環境が感染や炎症にどう関わるかが示されています。



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